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日本列島は南北に長いが、だからといって南から北へ、あるいはその逆の場合など、時候のあいさつ文には特に注意しなければならない。
「陽春の候」などと書いてみても、受信地の季候が実感としてそれにふさわしいものでないとき、かえっていやな感じを与えることにもなりかねない。
「相手の立場を考える」ということは、ビジネス文の基本であるから、むしろこのようなひとりよがりの時候あいさつは、ないほうがよい。
それよりも、「時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます」のワンパターンのほうがよいのである。
主文の起辞用語として、「さて」で起こし、「ついては」でつなぐパターンが一般に用いられる。
これは一応便利なので覚えておくとよい。
例えば、「平素、お引立にあずかり厚く御礼申し上げます」の前文につづき、主文で、「さて、当社では従来のA型に加え、さらに出力をアップさせたB型を発売することになりました。
ついては、これまでのA型同様、B型の販売についてもご支援くださいますようお願い申し上げます」とすれば、即ビジネス文らしき体裁にはなる。
しかし、「さて……ついては」は、「拝啓」「敬具」のように片方を外すことのできない定型ではないから、必要がないのに、無理して付けることはない。
それどころか、「さて、……のような成績をおさめることができました。
つきましては、ここに厚く御礼……」というような用い方は、「御礼」が逆にわざとらしくていけない。
表題の「つきましては」という、一見丁寧な表現法であるが、この言い回しは、敬語として意味がない。
「別便をもちまして」「したがいまして」「とり急ぎまして」などと同様。
「ついては」「別便にて」「したがって」「とり急ぎ」のように、「ます」を外したほうがよい。
丁寧表現の本当の姿というのは、読み手へのマナーとして文の身なりを整えるのだから、最後に付けて締めくくればよい。
ビジネスレターでは、相手方の呼び方は「御社」、自分の社は「当社」とするのが一般的となった。
「貴社」が誤りというわけではないが、貴社は同音語が多いので、今後「御社」に統一されていくであろう。
「弊社」「小社」に比べ、「当社」では謙譲の気持ちが不足していないかという反論はあるが、それは本文中で十分に表せばよい。
「当社」は、社内文書では「わが社」の意味でも用いる。
「御社」としながらも、「貴○○」という用い方は残る。
例えば、貴支店、貴工場、貴研究所、といった呼称は広く用いられる。
公用文では、今「殿・様の戦い」が急速に進んでいる。
対外文書のあて名の敬称は、これまで「殿」が常識であった。
最近、用法に変化が起こり、「様」にとって代わられる傾向を、はっきり示している。
個人名あての文書を「様」に統一した自治体としては、1965年4月実施の静岡県を皮切りに、1978年四月実施の愛知県、80年からの神奈川県などが続いた。
郵政省の対外通信事務も「様」に変わり、他の自治体も含め「様」派が多数になった。
民間の往復文書についても、「殿」から「様」への切り替えが急速に進んでいる。
ユーモラスといえばユーモラスな「親展」がある。
あるダイレクトメールが送られてきた。
見ると、赤スタンプで「親展」とあり、封はホチキスで止めてある。
赤色の「親展」は、失礼である。
封がホチキスでは親展の意味がない。
これでは、こっそり開封して元どおりにすることぐらい、だれにでもできる。
それでも、ハガキの「親展」よりはましかもしれない。
もっとも「親展」とは「親しく見ること」と思っている若い人も、最近はいるらしい。
なお、取扱中の損傷を避けるため、ホチキス止めはやめるよう、郵政省でも呼びかけている。
会員各位殿「今年度の事業運営の方針について」などという、会員への連絡文書を見て、不思議に思うことがある。
複数の会員にあてて、「会員各位殿」となっていることが目立つ。
「各位」とは、複数者を対象として、その一人ひとりに対する敬称ではないか。
この敬称に「殿」や「様」を付けるのは、屋上屋というものであろう。
「会員各位」でよい。
「会員様各位」も、やはりおかしい。
社内文書についてもこの点は同じで、ひどい例では「各部課長各位殿」となっているからやりきれない。
「部課長各位」でよい。
「○○局各部課長殿」ならば差し支えない。
個人名で資料などを請求した場合、「山田太郎御中」という送り状を受け取ることがある。
受け取る本人は、まるで他人から呼び捨てにあったような気持ちになる。
この種の送り状は、はじめから「御中」とあて名の部分に印刷されていることが多い。
ここにあて名を書き込むから、当然、個人名+御中となる。
定型の送り状には「御中」を印刷しないほうが無難である。
印刷するなら、「様」か「殿」がよい。
○○会社様、○○組合殿となっても誤りではないし、さほど抵抗感もない。
しかし「山田太郎御中」は誤りである。
山田部長様のご配慮で社内文書の本文中での敬称は、一般に「部長」「課長」「係長」「君」が用いられる。
外部向けの本文中では、「氏」「様」「さん」などを付ける。
「氏」は三人称のみに付け、「様」は二人称・三人称に共用できるといった使い分けはある。
今後増えてゆく傾向として、「氏」「様」の代わりに、職位・職名・役名などを用いる方法があげられるが本文中では「山田部長様」という敬称の付け方はなじまない。
「○○部長・山田一郎様」とする。
大川教授、井上先生、上監督、大和○○県知事、中原名人のような使い方はよい。
貴方様の講演謝金「当○○○○協会の講座につき、ご多忙のところ格別のご指導を賜り厚くお礼申し上げます。
お陰さまで所期の目的を達成し、無事講座を終了することができました。
貴方様の講演謝金の源泉徴収票をご送付申し上げますのでご査収ください」こういった文章では、お礼を述べる部分がつきものである。
主題は源泉徴収票かもしれないが、お礼の部分が先にくることは、このような場合、むしろ望ましい。
さて、「貴方様の……」という言い方にはいつもひっかかる。
「あなた」という呼び方は、1960年代の前半から70年ごろにかけて、対等以下に対する呼称に変化してしまった。
本来、上位者に対して用いられた「あなた」が、戦後、言葉の「民主主義」のなかでだれにでも用いられるようになった結果、その価値が薄められ、今度は上位者に対して使いづらい言葉になってしまった。
そこで「貴方様」などというかさ上げ表現が、やむを得ず使われる。
「お・ご」などを付けて尊敬を表す所属の尊称を用いて、「ご講演の謝金」「貴口座に」のようにすれば「貴方」は不要になる。
「お部屋へうかがいます」と同じ要領である。
もう一つ、動作の言葉に置きかえる方法がある。
「あなたが言うとおり」に代えて「おっしゃるとおり」とする表し方である。
以上二つの方法を十分に活用したい。
急ぎの用件の場合、「大至急お願い申し上げます」のような表現が使われる。
「大至急」という用語そのものは悪いとはいえないが、「大至急」とはどの程度のことなのか、受け取った方にはわからない。
「恐れいりますが○月○日までに」という具体的表現が必要である。
「早め」「折り返し」「急いで」などの表現も、自分側中心の押しつけがましさだけが残ることがあるので注意したい。
封筒の表に「至急」という印を打った普通便を見ることがあるが、配達局に対してなんの効果もないばかりか、相手からは、失社ととられる。


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